エンジンオイル添加剤は果して効果があるのか?
かつて、クラブのメーリングリストにおいて、その効能が論ぜられていたマ○○○ロン等のエンジンオイル添加剤について一言述べさせて頂きます。以下の私の考察は、大手オイルメーカに問い合わせた結果を基に、各研究資料から策定したもので、極力、私見を排したものです。
現在、減摩効果をうたう添加剤としては、マ○○○ロン等のテフロン系添加剤と有機モリブデン系の、二種類があると思いますので、これらを中心に話題を進めます。
(1) マ○○○ロン等のテフロン系添加剤
テフロン系添加剤としては、マ○○○ロンを始め、ス○○○ 50やT○8等が出回っていますが、主成分はテフロンです。この名称はデュポン社の商品名で、正確には化学名称であるPTFE、つまりポリテトラフロロエチレン(Polytetrafluoroethylene)と言った方がよいでしょう。この物質については、化学辞典で引けば次のように説明されています。
「テトラフルオロエチレンの重合によって得られるフッ素樹脂で、粉末か水分散液として入手することができる。化学薬品に対して極めて不活性で、熱安定度が非常に高く、摩擦係数が小さく殆ど全ての材料に付着しないという特徴がある。略号はPTFEである。」
この説明やオイルメーカの研究データにより以下の事実が判明します。
- この説明にもあるように金属には付着しない。つまり、添加剤メーカがうたっているような「テフロンによる金属表面処理」とは、真っ赤な嘘である。実際、オイルメーカに問い合わせたところ、金属表面には付着せず、オイル交換時に全量流れ出るということである(これは後述の有機モリブデンの場合も同じ)。
- 固体性状であり、また比重が大きい。→つまりオイルとは混ざりにくく、オイルパンに沈殿する。1週間に一度とか、月に一度しか乗らない車の場合は、確実に沈殿する。
- 前記と関連して、沈殿したテフロンを、エンジン動作中に分散させるために清浄分散剤を入れる必要があるが(つまり再分散性改善のため)、マイクロロン等の場合はフロン溶剤が入っている。これは極めて低粘度の液体で、オイル全体の粘度を低下させる。→あるオイルメーカの技術者は、この粘度低下のために、入れた直後、エンジンレスポンスがよくなる錯覚を与えるのではないかと言っている。
- PTFEの粒径を維持するのが難しく、使用の過程で徐々にPTFEの粒径が大きくなるという問題がある。→フィルタに捕捉され、油中のテフロン濃度が急激に低下する(私の経験では、確かに最初の2000KM位は燃費改善効果(10%位)があったが、それ以後急激に低下した)。つまり、ある程度走れば、PTFEは全てフィルタ中に取り込まれ、添加剤を入れた意味が無くなる。
- 元々、銃器の銃身の低摩擦化のために開発されたもので(固体であるため塗布し易い)、テフロンを開発したデュポン社は、自動車用には使用してはならないことを明言している。
(2) 有機モリブデン
- これまでオイルには必ず使用されていた添加剤ZnDTPの、Zn(亜鉛)部分を補完、代替するものとして、最近使われるようになった。
- 基本的には固体であったが、最近液体のものが主流となっている。→オイルとの相溶性が良い。比較的長期間でもオイルパンに沈殿しない)。
- 効果的な減摩剤として前記のテフロンと同等の性能を有する。しかし価格は高い。
- SAE(=Society of Automotive Engineer:アメリカ自動車技術者協会)は、時期オイルグレードとしてSK規格(現在はSJ規格)を準備しているが、その際には規格取得の条件として、テフロンではなく、有機モリブデンを減摩剤として使用するよう定めている。
さて、このように書いてくると、PTFE等テフロンの優位性は、全く無く、寧ろ有機モリブデンの方が良いように思えます。しかもPTFE添加剤の価格も正当化できるものではありません。
これは私見ですが、現在のオイルには、有機モリブデンを含め実は多様多種の添加剤が入っており、敢えてユーザが屋上に屋を架すようなことはする必要が無いのではないかと思うのですが、如何でしょうか。
また、マ○○○ロン等のテフロンの効果がそれ程良ければ、オイルメーカが既に入れているはずです(しかもモリブデンよりも安い)。しかしどの大手オイルメーカも、ただの一社として、テフロン系の添加剤は選択していません(つまり現在の主流は安全な有機モリブデン)。前述のようにSAEという、世界各国の自動車メーカの技術者の集まりである協会でさえ、減摩剤としは有機モリブデンを推奨しています。
これらの事を充分に検討の末、誤りのない選択をするようクラブ員に望みます。尚、質問は何でも、技術的であれば受け付けます。
最近、あるクラブ員からマ○○○ロンを含む添加剤についての記事がインターネットに掲載されているとの連絡がありました。大変興味深い内容ですので、是非、一度アクセスしてみることをお勧めします。URLは以下の通りです。
http://www.mercedesbenz-net.com/trouble/tenkazai/
この記事中、一部不適当な画像がありましたため、関係者に御迷惑をおかけしましたことを深くお詫び申し上げます。
文責:加藤登志夫